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インタビュー
知的財産に関する相談が約5割を占める
事務所設立の経緯を教えてください。
素材化学会社の技術者として4年間勤めた後、法務・特許本部に異動し、通信機器大手の特許部でも勤務しました。その後、法科大学院に進学して司法試験に合格し、2010年に事務所を設立しました。
現在、企業法務についてどのような相談が寄せられていますか。
企業法務の中でも、知的財産に関する相談が約5割を占めています。「知的財産権を侵害された」「侵害してしまった」というご相談や、知的財産に関するライセンス契約のご相談があります。この他、人事労務の問題や契約書のチェックなど幅広く対応しています。
以前は特許のご相談が多かったのですが、最近は著作権や商標権、意匠権についてのご相談をいただくことが増えてきました。
知的財産権の侵害に関する相談では、どのような対応をしているのでしょうか。
まず、本当に侵害が起こっているのかどうかを調査します。具体的には、特許権侵害の場合は、特許請求の範囲の構成要件を解釈して、侵害したと思われる製品や主張されている製品と対比し、権利侵害が発生しているかの調査をします。
もし、侵害していたら、それに応じた対処をしていきます。解決方法は、クライアントが侵害している場合は、権利者側と交渉して、損害賠償金の額を調整したり、製造中止なりライセンス契約を締結させていただくなりします。
侵害されている場合は、クライアントがどういったことを希望しているかによりますが、多くの場合は、侵害している側に対して侵害行為の停止を求めることになります。
具体的には、侵害している製品の販売・製造をやめてもらう、知的財産権に基づくライセンス契約をする、ロイヤリティーをいただく交渉をするなどです。過去の侵害については、損害賠償金を請求していくことになります。
権利侵害にあたるかどうかの判断は、専門家でないと難しい側面がありそうです。
たしかに、企業側としては「侵害している」と思って相談に来られるものの、実際に権利の範囲と対象製品とを比較したときに、侵害といえない場合も多々あります。
例えば、「商標が似ている」とご相談に来られても、法的には商標として似ていなかったり、商標として使用されていなかったりすることがあります。そういった場合は、その旨を率直に申し上げて、ご相談しながら今後の方針を決めていくことが多いです。
逆も然りで、権利者から「侵害している」と言われた場合も、実際には侵害していないことはよくあります。
知的財産権を意図的に侵害しないことが重要
知的財産権に関する紛争特有の難しさはありますか。
知的財産権という権利を得ているにもかかわらず、権利交渉しようとすると、その権利自体が無効と判断されたり、その権利を主張することが権利濫用にあたり認められないと判断されたりすることがあります。
例えば、土地を所有していれば、その土地の所有権はほぼ揺るぎないもので正当に権利行使できると思います。一方、特許権は特許庁に認められたものがあるとしても、権利に傷がある(瑕疵がある)、無効事由を含んでいるといった理由で無効になることがあります。
実際に紛争や訴訟に発展し、相手方の主張をみてはじめて分かることもあるため、事前の予測が難しい側面もあります。
紛争になる前に私の方で精査し、「認められない可能性がある」と助言することもありますが、企業としては特許権や商標権をお金を出して取得しているので、行使したくなるものです。よって、ご納得いただくためには綿密な調査が必要になります。
事前に知財トラブルを防ぐにはどうしたら良いのでしょうか。
弁護士の立場から事業全体を拝見して、様々な助言をさせていただくことが一番だと思います。
例えば、ある製品を世に出す前にその技術的特徴を伺い、既存の特許権をデータベース等で調査して見つかった特許発明との対比をし、「ここが侵害するのでここを変えたほうがいい」などと助言をします。新製品のローンチの前にご相談いただき、非侵害調査をおこなって万全を期してローンチすれば、侵害リスクを引き起こす可能性は低くなります。
著作権は非登録型の権利ですので全てを調べるのは難しいですが、特許権や商標権、意匠権については、検索であたりをつけることができます。
知財トラブルに関して気をつけるべき点はありますか?
一番重要なのは、意図的に侵害しないことだと思います。コンプライアンス意識が低い事業者ですと、偽物とわかっていながら売ってしまったり、人が売っているものを真似して自分のツテのある工場で作らせたりするケースが多くありますが、絶対にトラブルになります。バレなければいいだろうという意識ではなく、十分に気をつける必要があります。
中小企業こそ知財レビューが不可欠
どの業界からの依頼が多いのでしょうか。
製造業や輸入販売業、サービス業、教育機関、個人事業主など多岐に渡ります。
サービス業では、サービスの名称の商標の知的財産権に関するご相談があります。教育機関では、大学の研究成果として知的財産権が生じますので、知財権に関連した契約に加え、大学のガバナンスに関するご相談をいただきます。
個人事業主の方ですと、ECサイトを運営している方からの相談が多く、「模倣品を売られている」「模倣品と指摘された」「著作権侵害を主張された」「著作権を侵害されている」といったご相談があります。
ある表現物を発表する時に、「著作権侵害に該当しないか」と事前にご相談をいただくこともあります。著作権侵害については商標などのように登録があるわけではないので、網羅的な調査は難しいものの、創作の過程を検証し、弁護士の目線からご助言します。
単発ではなく、顧問として継続的に依頼することのメリットを教えてください。
顧問ではなく単発の案件でも依頼を受けてはいますが、継続的にご依頼いただきますと、事業の内容を知っていますので能動的な対応ができますし、予防法務という観点からも様々なアプローチができます。
普段、事業をされる中で、ある行為が問題かどうかすら分からないということもたくさんあると思います。そうした段階でご相談いただき、ご助言させていただくことが、問題を未然に防ぐことになりますし、問題が起こっていたとしても被害拡大を防ぐ対応を取ることができます。
依頼者の企業規模はどのくらいですか。
中小企業からのご依頼が多いです。法務部員が全くいないという会社も多いですので、まるっと契約書を審査することもあります。法務部員のアウトソーシングと考えていただくと良いかもしれません。
スタートアップはリソースが少ないからこそ、知財レビューが必要不可欠だと思います。事前チェックなく開発を進めて、後からアウトプットした製品が他者の権利を侵害していることが発覚すれば、開発費用が無駄になってしまいます。
開発のマイルストーンは様々あると思いますが、適宜、知財レビューをしていくことが大切です。大企業はそうしたアプローチをしていることが多いですが、スタートアップも弁護士にアウトソーシングして対応することで、予防法務にもつながると思います。
中小企業が特許を取得するメリットはありますか?
企業の性質にもよりますが、技術で優位性を持っている中小企業は、特許取得が必須になってくると思います。企業規模が小さければ小さいほど、いいものを作ると、大企業に真似されたり特許権の行使をされたりして、事業断念の圧力をかけられることがあります。
例えば、スタートアップで優れた技術をお持ちの会社は、製品をローンチ発表した段階で、誰でも知っているような会社から警告書が届いて横やりが入るということは”あるある”だと思います。
ですから、そうした時に私どもにご相談いただき、大企業の知財部に対して特許権を侵害していないという主張をして、なんとか事業を遂行できるようにしていく。そうした業務は典型的なものです。本来であれば、警告書が届く前段階からご相談いただければよいのですが、リソースと資金の関係で紛争化してからのご相談が多いですね。
実際の特許取得の実務については、弁護士ではなく弁理士の領域なので、弊所と連携している特許事務所にご相談いただくことができます。
知的財産に関する「町の弁護士」に
企業法務案件を手掛ける上で心がけていることを教えてください。
企業の立場になって考えていくことです。法的なリスクを指摘されて終わりではなく、リスクをどの程度受忍して対策を取るのか、企業の論理を踏まえた上で、企業の目線で支援することを心がけています。
やはり、弁護士から法律論で正論を指摘されても、企業としては困ってしまうと思います。「法的にはこうだけど、御社のリスクはこうで、このくらいのリスクを受容できるならやった方がいいのではないか」までお伝えするようにしています。
企業法務分野における先生の事務所ならではの強みや、他の事務所との違いはどんなところでしょうか。
企業法務と知的財産に特化した事務所であることです。特許事務所と緊密な連携をとっているので、ワンストップの対応を取ることができます。
私自身、弁護士になる前を含めると約30年ほど知的財産に携わっていますので、ノウハウがあります。また、知的財産法務をやっている事務所は、規模の大きな法律事務所が多いイメージですが、私どもは小さな事務所ですので柔軟性が高く、フットワークも軽いです。
中には、大きな事務所にご相談したところ、弁護士が3人出てきてその分の費用を求められたというお話も聞いたことがあります。「マチ弁(町の弁護士)」のような形で知財の相談ができる事務所を目指しています。
また、私は長年事業会社で働いてきましたので、事業会社の目線を持っている点も強みだと思います。弁護士として法的なリスクをご指摘するだけではなく、それが事業の上でどうなのか。妥協点を見つけるとすれば、どういうところにあるのか。そうした観点でご支援をさせていただきます。
企業法務について弁護士への相談や依頼を検討している方へ向けて、メッセージをお願いします。
企業法務分野といえども、気軽にご相談いただけるような事務所を目指しています。初回の相談は無料ですので、まずはご相談いただければと思います。知財分野をきっかけに相談いただいて、それから人事労務とか契約審査など会社全般のご支援をしている会社もあります。
弁護士なしで意思決定してしまうと法務リスクを見逃してしまい、かえって対応に時間と費用を取られてしまいますので、お早めにご相談ください。