
インタビュー
素材メーカーで知財業務に従事。弁理士から弁護士へ
これまでのご経歴について教えてください。
大学時代は工学部で学び、大学院修了後は大手素材メーカーに入社して20年近く勤務しました。働く中で、「資格を持っていた方が、長い目で見たときにキャリアの選択肢が広がる」と考え、弁理士試験の勉強を始めました。弁理士という資格自体は学生時代から知っていて、その頃から知的財産に興味を持っていたこともあり、より深く学んで仕事に活かせればと思ったんです。
弁理士資格を取得してから部署異動の希望を出し、最終的に知財部に移りました。それまでは主に製造、生産技術開発に取り組んでいましたが、知財部では約10年にわたり、特許出願・権利化や事前調査、無効化、紛争、契約、コンプライアンス対応などに携わりました。
やりがいを持って取り組んでいましたが、次第に、弁理士資格だけでは仕事の幅が限られることにもどかしさを感じるようになりました。弁理士は知財の専門家と言われますが、交渉や裁判となると弁護士でなければ対応できません。より高い専門性を身につけて仕事の幅を広げるために弁護士を目指そうと決意し、筑波大学法科大学院に入学しました。会社での勤務を続けながら夜間コースに通い、2021年1月に司法試験に合格しました。
2025年8月に蒲田で事務所を開設されましたが、この場所を選んだ理由を教えてください。
大田区は中小製造業が集結しているエリアです。私自身、製造業に長年従事してきたことから、ものづくりに携わる方々の力になりたいと考えて、蒲田に事務所を開設しました。また、前の会社の工場(現在はテクニカルセンター)がJR鶴見線の沿線にあり、乗り換えで京浜東北線をよく利用していました。京浜工業地帯に馴染みがあったことも蒲田を選んだ理由の一つです。
事務所の理念や大切にしていることを教えてください。
経営者の方をサポートするというよりは、一緒に問題解決に取り組む、伴走型の弁護士でありたいです。単に目の前の問題を処理するのではなく、「今後会社がどういうふうに成長していくのが理想ですか」といった話もしながら、中長期的な目線で、会社にとってベストな対応を一緒に考えます。
私が解決できることは事業課題の一部に過ぎませんが、相談してくださった方々の力になるために、努力を惜しまず最善を尽くします。こちらが協力できることがあればぜひ協力させてください、という姿勢で、会社が描くビジョンを実現するために一緒に進んでいきたいです。

特許の出願・権利化や契約書チェック、コンプライアンス体制の構築、訴訟・紛争解決など幅広く対応
企業法務についてよくある相談や依頼の内容を教えてください。
事務所開設からまだ日が浅いですが(2025年10月インタビュー実施)、今のところ、前職から注力している特許・実用新案・意匠・商標に関する出願・権利化の依頼や、契約書のチェック・作成などが多いです。基本的には予防法務に力を入れたいと考えていますが、すでに発生したトラブルを解決するための交渉や訴訟にももちろん対応します。
下請法(2026年1月1日から取適法)や2024年11月に施行されたフリーランス法などについて、契約書関係、コンプライアンス体制の構築や行政指導・勧告・措置命令の事後対応などの需要があると考えています。
また、BtoB製造業以外の話になりますが、景品表示法、つまり価格表示の問題(有利誤認表示)などで消費者庁や自治体からの勧告がしばしば出ているため、そういった行政指導が入らないようにするための助言も行いたいです。
セミナー講師もされていると伺いました。
はい。知的財産や契約書、コンプライアンスなどに関するセミナー講師の依頼を承っています。
契約や下請法、フリーランス法、景品表示法などについて、よく知らないまま業務を行っている会社は少なくないと感じています。特に中小企業やフリーランスでは、契約書をほとんどチェックせず、相手が提示してきたものにそのままサインしてしまうこともあり、その結果思わぬトラブルにつながるケースも散見されます。
実際に問題が起きてしまう前に、セミナーを通して、正しいルールを知ってもらえるような活動をしたいと思っています。
仕事をする上で心がけていることを教えてください。
丁寧に仕事をすることに尽きます。依頼者の悩みにしっかり耳を傾けて、法的にどう解決できるかを一緒に考える。依頼者のトラブルを解決するため、あるいは未然防止のために、一つ一つのプロセスに丁寧に取り組んでいきたいです。丁寧な仕事を徹底することが、依頼者との信頼関係の構築にもつながると考えています。

日頃から弁護士に相談することで、トラブルのリスクを最小限に抑えられる
企業法務について弁護士に相談・依頼するメリットを教えてください。
大きな問題が起きたときだけではなく、ちょっとした疑問や不安が生じた段階で弁護士に相談できる体制を作っておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
例えば契約について、法務部がない会社や契約書のチェック体制がない会社では、取引先が提示した契約書をリスクもわからずに受け入れてしまいがちです。
例えば秘密保持契約では、相手の会社が、契約終了後の秘密保持期間を設定せずに契約書を提示してくるケースがあります。そのまま受け入れてしまうと無期限で情報を管理しなければならなくなり、秘密情報が漏洩して損害が発生した場合の損害賠償義務を負うリスクがあります。契約書を交わす前に弁護士のリーガルチェックを受ければ、「秘密保持期間は3年くらいに設定しませんか」といった交渉ができ、リスクを避けられます。
他にも、「支払いの遅延がある」「業務委託でやり直しをさせられて追加費用が発生したのに、その分が支払われない」といったよくあるトラブルも、事前に契約書で取り決めておけば未然に防げることが多いです。
基本的に契約書は、提示する側に有利な内容になっています。提示する側に法務部がある場合や、法務部がなくても弁護士がリーガルチェックしていれば、リスクは漏れなくカバーされ、法令に違反しない範囲で提示する側に有利な条件が定められています。そのような会社では、有利な契約を交わすためのノウハウや、起こりうる法的トラブルをカバーする方法を把握しているからこそ、問題なくビジネスを進められるのです。
「うちには法務部がない」という会社の方も、顧問契約を結ぶなどして日頃から弁護士に相談できる環境を作ることをお勧めします。そうすることで、契約トラブルをはじめ法的な問題が発生するリスクを最小限に抑えることができます。
弁護士と顧問契約を結ぶメリットを教えてください。
一つは、料金面でのメリットです。当事務所では、単発のご依頼よりも顧問契約の方がお安くなるように設定しています。例えば債権回収は顧問契約の範囲外ですが、月額5万5000円(税込)以上のプランの顧問先には割引を適用しているので、単発で依頼するよりも少し費用が抑えられます。また、紛争に発展した際の着手金や報酬金も割引になります。
契約書作成もお得です。単発のご依頼の場合、1通11万円(税込)になることもあります。顧問契約の場合、月1通程度であれば月額5万5000円(税込)以上のプランの範囲内で対応可能です。
また、顧問契約を結ぶと、弁護士は会社と日常的にコミュニケーションを取るので、事業内容や経営状況、取引相手などの情報を把握できます。万が一問題が発生したときにも、会社の実情に即した対応が可能です。継続的なお付き合いをすることで、会社との信頼関係もより強固なものになります。
会社からすると毎月の顧問料が負担になるという気持ちはわかります。ただやはり、法的なリスク管理ができている会社と対等に渡り合うには、弁護士のサポートが必要です。トラブル発生により大きな損害を負うリスクを避けるためにも、顧問契約を検討していただければと思います。

知財に精通する弁護士が出願から訴訟まで一括対応。予防法務の悩みもお任せください
企業法務分野における事務所ならではの強みや、他の事務所との違いを教えてください。
まずは知財関係が強みです。特に特許に関しては、前職で約10年間、出願・権利化や調査などの実務経験を積み、弁護士資格取得後も専門性を磨いてきました。
弁護士資格があれば弁理士資格も登録できますが、弁護士で弁理士登録もしている方が、弁理士試験に合格していて、実際に特許の明細書作成・出願経験もあるかというと、必ずしもそうではありません。むしろそういう方は少ないです。その点、私の場合は弁理士出身の弁護士で知財の実務経験もあるので、出願・権利化や知財に絡む契約は非常に得意な分野です。もちろん、紛争になった場合の交渉や訴訟対応もお任せください。
また、下請法やフリーランス法、BtoB製造業以外では景品表示法などに抵触しないようにするための社内体制の整備や、実際にトラブルになってしまった場合の対応、再発防止策の策定にも力を入れているので、ぜひ相談していただければと思います。
企業法務について弁護士への相談を検討している方へメッセージをお願いします。
契約書は普段トラブルとして顕在化することが少ないのでつい見逃しがちですが、十分にトラブルの原因になりえます。
ある弁護士の方がこんな話をしていました。著作権分野において、その先生の元に寄せられる契約相談の50%が、契約内容を精査せずに締結して最終的にトラブルになったケースなのだそうです。トラブルが起きるとマンパワーを使いますし、解決するには費用もかかります。「うちは大丈夫」と思っていると足元を掬われる可能性があるので、日頃から対策しておくことをお勧めします。
また、行政制裁についても注意が必要で、コンプライアンス体制をしっかり整えていなければ措置命令などのペナルティを受ける可能性があります。インターネットで「公正取引委員会 下請法 措置命令」などと検索すれば、どこの会社が制裁を受けたかは誰でも見ることができます。違反した事実が明らかになれば、会社の信用が低下し、ビジネスに悪影響が出る可能性があります。
そうなる前に、日頃から、わからないことをそのままにせず、少しでも気になることがあれば気軽に弁護士に相談してください。法律もどんどん改正されているので、不明な点があれば遠慮なくお声がけいただければと思います。もちろん、すでにトラブルになっているケースも、知識と経験を駆使して解決にあたりますので、安心してお任せください。